逆説の日本史〈10〉戦国覇王編 (小学館文庫)



逆説の日本史〈10〉戦国覇王編 (小学館文庫)
逆説の日本史〈10〉戦国覇王編 (小学館文庫)

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400年前の奇跡

現在の日本人の我々が、宗教戦争の中にいない幸せは、信長によってもたらせた。
信長の事業は、20年ほどで天下をほぼ治めることも可能にした。
その生涯は、特筆するものである。それを追うことは、非常におもしろいことである。
「天下人になろう」という意志が、その始まりだからである。

日本史に燦然と輝く英雄

シリーズ10巻目の本書は、そのほとんどを信長の生涯に充てています。
戦国時代と言えば、信長が筆頭に来るわけですが、そんな彼の生涯についても、多くの誤解があった事が本書で明らかとなります。
比叡山の焼き討ちや、一向一揆虐殺、ドクロ杯と、「記録に残っている事実だけをつなぎ合わせれば」彼は残忍で、人間として欠陥があると言う評価になるのでしょう。
私も、同様の印象を信長に持っていましたし、「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」などと言う句もそう言った共通認識を元に作られたのだろうと感じていました。

それを著者は、誤解である事をひとつひとつ、事実を丹念に拾い出し、当時の状況及び常識を理解したうえで、「どういう判断が最も合理的なのか」と言う視点で理解しようとしています。ここに、私情が入らないところが著者の優れたところで、だからこそこのシリーズには多くのファンがいるのでしょう。
革命児信長の革新的政策と実行を分析した力作

本シリーズの中でも屈指の力作であると思う。
政策実行の要諦は@情報収集と重要情報の取捨選択、A現状における課題の把握、B課題克服への具体的計画の策定と実施の決心、C計画の実行と言われるが、信長が中世戦国時代の課題を正確・冷静に把握し、具体的なアクションプランを立てて、万難を排して実行していく様を、丁寧に分析・説明している。数多い信長論の中でも屈指の力作といえるのではないか。
また、有名な浄土宗VS日蓮宗で戦わされた安土宗論に関して、従来の八百長による浄土宗勝利説に対して斬新な「逆説」を展開している点も非常に興味深い。
井沢氏の分析力・啓蒙意欲に改めて深い敬意を表したい。歴史に興味のある方のみならず、ビジネスマンにも是非お勧めの書であると考える。
「神」になろうとした男

「逆説シリーズ」第十作。本シリーズとしては珍しく、信長一人に一冊を割いている。著者の力の入れ方が分かる。

信長の天下統一の過程は人口に膾炙しているので、流石にエピソードに目新しいものは少ない。ただ、他の戦国大名があくまで足利幕府の幕臣であろうとしたのに対し、信長一人が天下統一のビジョンを持っていたのは天才と言う他はない。著者が塩野氏の弁を引用して「現在の日本に宗教戦争がないのは、信長が400年前に追い払ったからだ」と述べているのは卓見。私は藤沢周平氏のファンなのだが、信長の宗教政策に関する限り、塩野氏の洞察力に軍配を上げたい。そして、信長が新しい日本の「神」になろうとしていたという論にも賛成である。信長流の合理的発想で、将軍・天皇を越えた存在になるためには、こうする他はないからである。一見、破天荒のアイデアだが合理性を貫くと行き着く先はココしかない。本書中に出て来る安土城のCG画像を私もTVで観た事があるが、信長の絶対神思想が痛い程伝わって来た。「鉄甲船」の逸話は初耳だが改めて信長の天才を感じる。また、秀吉に先立つ信長の「東アジア経営構想」論にも驚いた。「本能寺の変」は武将としての光秀の"本能"的行動と考えるのが自然であろう。

著者の贔屓の信長に捧げた、シリーズ中でも最も熱気溢れる作品。過熱気味の宗教論を含め、著者の気魄が全編から伝わって来る渾身の一作。
未来のリーダー達へ

非常識を常識にしていく、国の新しいグランドデザインを呈示し実現に導く、タフで力強いリーダー像が描かれています。私観ですがこれを可能にしたのは、幾人かの初期の天皇、源頼朝、織田信長、一部の維新元勲達のみではなかったかと思います。信長がただの残虐な変革者ではないと数々の具体的証拠(政教分離など)をあげて言い切った著者に、ある意味で賛辞の念を感じた読者は少なくなかったのではないでしょうか?
また同時に真のリーダーとは?という疑問も提示されている気がします。我々日本人はこの疑問を充分に考える必要があるのではないでしょうか。変革期のリーダーは本流とは違うところから生まれてくることが多い。今も日本のどこかで傍流から現状の限界を見据え、様々な力を蓄えている未来のリーダー達が育っていることを祈ります。



小学館
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